1985年から提唱されてきた「ユニバーサルデザイン」
地球上の「誰一人取り残さない」ことを掲げるSDGsと多くの共通点をもつユニバーサルデザインは色彩、形状、フォントと様々な要素が絡み合い作られています。
その中で今回はカタログに限らず、あらゆるデザインにおいて「ユニバーサルデザインフォント(UDフォント)」がもたらす効果にフォーカスを当て解説したいと思います。
目次
そもそもユニバーサルデザインって?
ユニバーサルデザインは、1985年にアメリカのロナルド・メイスによって提唱されました。
定義として、「できるだけ多くの人が利用可能であるように、製品、建物、空間をデザインすること」としました。
似た意味を持つ「バリアフリー」という言葉がありますが、バリアフリーは、高齢者・障害がある人の生活上の様々な障壁(バリア)を取り除くという考え方です。
一方、ユニバーサルデザインはバリアフリーよりも大義、「より多くの人が使いやすい」という基本姿勢で、全ての人が使いやすいものであれば障害がある人にも使いやすいということになります。
よって、最初から障壁を感じさせないものがユニバーサルデザインの根本と考えられます。
ユニバーサルデザイン7つの原則
【原則1】公平な利用
どのような人でも公平に使えること
【原則2】利用における柔軟性
多様な使い手や使用環境に対し、使用上の自由度が高いこと
【原則3】単純で直感的な利用
使い方が簡単で、誰もが直感的に理解できること
【原則4】わかりやすい情報
周囲の環境や利用者の視覚・聴覚などの能力に関係なく、必要な情報が正確に伝わること
【原則5】間違いに対する寛大さ
誤った使い方をしても、事故や危険に繋がりにくい対策をもつこと
【原則6】身体的負担は少なく
身体的に負担を感じることなく自由で快適に使えること
【原則7】利用のための大きさと広さ
利用者の身体的状況に関わらず、不便なく使える大きさ、広さがあること
色彩、形状、フォントがユニバーサルデザインに与える影響
【色彩】
ユニバーサルデザインにおいて、色彩は大変重要な要素です。
ある人にとっては難なく見分けられる色の組み合わせが、全ての人にとって見分けやすいわけではありません。
色覚特性を持つ人であったり、白内障などの老化による目の疾患によっても視力は低下し、色の見え方にも変化が生じます。
【形状】
たとえば、トイレの標識のアイコンは瞬時に判断できるものであったり、斜めドラム式の洗濯機は洗濯物の出し入れに身体への負担が少ない、電気ポットはマグネット式のコンセントになっており、コードに足を引っ掛けてもすぐに外れるため、ポットが転倒して熱湯で火傷をするといった事故を防げます。
こういった知らないところで「形状」によるユニバーサルデザインの工夫も垣間見られます。
【フォント】
文字の空間を大きくしたり、濁点を大きくしているのが特徴で、複雑なエレメントを排除してシンプルにする工夫をしたもの。
可読性、視認性を向上させたものがUDフォントと言われています。
UDフォントとは?
UD Font(Universal Design Font:ユニバーサルデザインフォント)とはユニバーサルデザインのコンセプトに基づいたフォントです。
情報量が多い現代、より読みやすく、より見やすい、より伝えやすいを考えることで、導き出されたのがUDフォントです。教科書や取扱説明書、公共機関の案内版等、視認性が良いものにということでUDフォントが採用されている件数も増えてきています。
元祖はイワタとパナソニック(当時は松下電器産業)が2006年に共同開発した「イワタUDゴシック」です。機器の表示文字がつぶれて見えにくいのを回避するために作られ、それからデザイン業界に広まったと考えられます。
2022年現在、無償、有償、様々なUDフォントがありますが、DTPで御用達のイワタ、フォントワークス、SCREEN(ヒラギノ)、モリサワといったフォントメーカー各社のフォントの種類も豊富です。
弊社では主に「MORISAWA PASSPORT」の「UDフォント」を組版のベースとしてデザイン展開しています。
UDフォントがカタログにもたらす効果
カタログは業種により様々なシーンで読まれることが予測されます。
一般的なオフィスだけでなく、工事現場で、取引先で、厨房等々・・・
ユニバーサルデザインを取り入れたデザインで、UDフォントがカタログにもたらす効果とはどのようなものがあるでしょうか?
具体的に解説していきます。
効果① 読みやすい
UDフォントは形がわかりやすいように、文字の中の空間を広くとったり、濁点を大きくしたり、比較的シンプルなデザインが特徴。
文章をストレスなく読めるよう工夫されています。
効果② 理解しやすい
カタログにはスペックというものが必ずと言っていいほど入ります。
スペックは比較的小さな文字となってしまうので、ここはUDフォントの可読性のよさというメリットが十分発揮されるでしょう。
効果③ 誤認しにくい
UDフォントは判別性の高いものとなっています。似た形状の文字との区別がハッキリつくように差別化された字形になっているので誤認しにくくなっています。
カタログにおいて誤認はあってはならないことです。
特にスペック等を誤認して、間違った発注をしてしまった・・・といったケースも発生するかもしれません。
小さなことですが、UDフォントでトラブルが減少しているのも事実です。
まとめ
冒頭でも述べたように、SDGsに近い概念の「ユニバーサルデザイン」は登場より30年余り。街中や身近な様々な場面にユニバーサルデザインの考えが配慮されているのをよくみかけます。
日本のフォントメーカーによるUDフォントの登場からまもなく20年。
より読みやすく、より見やすい、より伝えやすいをコンセプトに生まれたUDフォント。
UDフォントはただそれらを使うだけでは十分ではなく、実際に人に伝える文書の作成などに使う際には、情報の優先順位や配置を考え、大切なことは字を大きく、短文で書くようにして、できるだけわかりやすく工夫する必要もあります。
このように、シンプルなデザイン、UI/UXが求められる現代社会。
瞬時に情報を捉えられる作り、わかりやすさ、さらにはデザイン性も持たせるカタログ作りが必要となってくるのですが、
なかでもUDフォントは今のカタログ制作にはなくてはならない要素なのです。